旬刊経理情報連載記事
事例でみる企業不祥事とその対策
第6回 クライシスマネジメントとは何か
媒体名:中央経済社「旬刊経理情報」P51 (2009.03.01)
新日本有限責任監査法人 公認会計士
大久保 和孝
不二家やシンドラーエレベーターは、いずれも直接的な法令等への違反行為が明確になっていません。それにもかかわらず事業が立ち行かなくなるほどの社会批判を受けました。
組織にとって最大のリスク要因は何でしょうか。極端なことを言うと、1つ、2つ法令違反行為があっても組織は成り立ちます。しかし、些細な事象でも社会の関心や常識に反した行為を行えば大きな社会批判を浴び、組織の存続を脅かす致命傷を負うことがあります。すなわち、組織にとって最大のダメージは社会批判です。そして、著しい社会批判を受けた時に、適切なクライシスマネジメントができるかが、事業の存続を左右するのです。
最近の不祥事をみると、社会批判を増大させる主な要因は、人的被害(健康被害を含む)をもたらした場合か、「隠蔽行為(疑いを含む)」の場合です。とくに「隠蔽行為」は、些細なことでも著しい社会批判となる事が多いのです。製紙業界の再生紙偽装や電力会社によるデータ改ざん等は、それらの事実よりもむしろ「隠蔽行為」に対して大きな社会批判が巻き起こりました。不二家では、「文書を隠蔽したのではないか」と疑われただけで、企業の存続が危ぶまれるほどの社会批判となりました。
このような社会環境において重要なことは、まずは事象の適法性の有無よりも社会の関心を尺度に自組織がおかれている状態を見極めることです。クライシス状態の時は、法的責任よりも社会的責任の方が重視されることに留意が必要です。このことは、食品企業の偽装表示等の不祥事からも明らかです。大切なことは、社会の関心がどこにあり社会に対してどのように責任を全うするかが問われ、それらに対して適切な対応をはかることです。
そして、対応の判断にあたっては、最終的には経営者自身の判断が求められることです。司法や会計の専門家は法令等の白黒の判断のプロであり、社会の関心を捉えるプロではありません。不二家やシンドラーの事件では、法的責任に関係なく社会の関心の尺度をもとに社会批判が増大し、事業の継続を厳しい状況に追い込みました。このことは最近の司法当局の考え方にも現れています。司法による判断が示され明確になる前に、メディアが中心となって当該組織に対する社会的評価を下し、当該組織の事業の継続性の可否を実質的に決めるのです。
このようなクライシス状態は、野球を例にすると「9回表に逆転され1点差の状態で迎えた9回裏」の状況にたとえることができます。どの企業も、いい製品を作り、それなりの事業を展開してきました。しかし、ある時突然、クライシス状態に陥り経営が危機的な状況に追い込まれるのです。そこで、日頃訓練もしていない人間がバッターボックスに立っても逆転ヒットを打つことはできません。危機管理コンサルタントの指導による小手先の対応では、社会批判をかわすことはできないのです。これまで訓練を重ねてきた者だけが、ピンチをチャンスにすべく、打席で集中することで逆転ヒット(危機を脱する)を打てる可能性があります。企業経営における日頃の訓練とは、確固たる経営理念をもちつつ自社に内在するリスクを全体的にかつ体系的に捉え、環境変化に鋭敏に対応できるリスク管理体制を構築しておくことです。いうなれば、会社法で規定されている内部統制をしっかり構築しておくことです。なお、金融商品取引法で要求されている内部統制の構築だけでは不十分です。