旬刊経理情報連載記事


事例でみる企業不祥事とその対策
第7回 不祥事の本質とその対応

媒体名:中央経済社「旬刊経理情報」P36 (2009.03.20)

新日本有限責任監査法人 公認会計士
大久保 和孝

ミートホープによる牛肉ミンチ偽装事件、消費者金融におけるグレーゾーン金利、NOVAによる授業料未返還問題等はこれまで法令上グレーゾーンとされ、社会通念上暗黙の了解とされてきたことが表面化し社会問題化したことで、業界全体の問題となりました。昨今、このようなケースが頻発しています。

企業不祥事を大きく分けると、(1)粉飾決算など悪意を持って行なわれる不正行為、(2)情報漏えいや誤発注のように意図はしていないものの不注意により生じる行為、(3)食品偽装やデータ改ざん等法的グレーゾーンとされていたことが社会の価値観の変化に伴い、表面化し著しい社会批判をもたらす行為の3つに分類することができます。

(1)の意図的な不正行為は議論の余地もなく厳罰を持って対応すべきものであり、不祥事というより犯罪です。それに対して、いわゆる不祥事とは、(2)(3)のように経済環境の変化に伴いリスクが急激に高まることで問題が生じたものを指します。これらは企業として組織的な対応ができるかどうかで事業の持続性そのものを左右しかねません。

特に留意すべきことは、これまで法令上はグレーゾーンとされ社会通念上暗黙の了解として黙認されてきた行為が、社会の価値観が急激に変化したことで、少しでも表面化すれば、過去の経緯など一切関係なく一律に白黒が判断され、大きな社会批判を招く可能性があることです。ミートホープ社による牛肉ミンチの品質表示偽装事件は食品業界の問題に拡散しました。NOVA社による授業料未返還問題から波及して、私立大学も授業料返還をしていなかったことも明らかになりました。NOVA社と同時期に最高裁で返還義務が明示され、学校業界全体に横たわる問題となったのです。このような事例は消費者金融におけるグレーゾーン金利、製紙業界の再生紙偽装問題など枚挙に暇がありません。いずれも社会通念上、暗黙の了解とされたことが、あることをきっかけに瞬く間に業界全体の問題となりました。

重要なことは、もともと日本の経済社会はグレーゾーンだらけであることを認識し、自社の事業に内包するグレーゾーンを自認し、いち早く対応することです。そもそも、すべての法令を遵守することは不可能であり、「法令順守は当たり前」との安易な考え方をなくす必要があります。むしろ、一見すると当たり前のことのように捉えられてきたことや、これまで見て見ぬ振りをしてきたような些細なことを中心に、グレーゾーンに潜む問題に積極的に対応することです。簡単に白黒の判断ができないからこそグレーゾーンとされてきたのです。急激に変化する社会環境においては、たとえ業界の慣行であったとしても、業務上のグレーゾーンと直接向き合い、いち早く対応することで、同業他社との差別的な対応を可能にし、競争優位をもたらす可能性があります。

決して、形式的・表面的・抽象的なリスクを抽出したり、課題を裏返しした原因らしきものを羅列し、組織としての責任回避的な対応や形式的な取り組みに終始するのではなく、むしろ、要因の本質に迫るべく従業員の「心に宿るカビ(=職場内の「村の掟」)」をいかに除去できるか考えることです。

従業員1人ひとりの問題意識を根底から変え、自発的な意識向上を図るためには、環境変化への正しい理解と自負心を育み、組織に対する帰属意識を高める必要があります。従来の座学による一方的な研修をやめ、手間と時間をかけたとしても、参加者の問題意識を高め自発的な取組みを促すための研修制度をいかに確立することができるかが成功の鍵を握ります。

コンプライアンス, CSR, 環境の新日本サステナビリティ研究所

検索

 
Back to top