媒体名: 日刊工業新聞 37面 (2009.09.29)

この連載で一貫して主張してきたことは、環境変化への適応力である。この数年間で社会構造が劇的に変化し、環境変化への適応力そのものが最大のリスク要因となった。初回、ダーウィンの「最後に生き残るのは知力でも強さでもなく環境変化への適応力である『種の起源』」を引用した。約5億4000万年前の古生代カンブリア紀初期に、それまで生物の多くはバクテリアのようなものばかりで遅々と進まなかった進化が、この時代に何らかの原因により光の量が増大し、「眼」を持つようになった。それから環境が劇的に変化し、生物が爆発的な進化を遂げたという「光スイッチ説」が近年有力な学説となってきた。急激な環境変化に適応するためにも、組織も「眼」を持ち、社会に対する鋭敏性を高めるとともに、それを実現するための迅速な意思決定メカニズムの構築が求められる。しかし、爆発的な進化を遂げた生物の多くはその後に絶滅してしまう。激変する環境下では、変化に適応しすぎても、組織が保たない。持続的な成長のためには、揺ぎない確固たる信念を持ちつつ、環境変化に適応することだ。

経営が最優先に取り組むべき課題は、環境変化にセンシティブかつ自発的な思考力を持ったリスク感性力の高い人材を一人でも多く育成することだ。表面的・形式的に安易な捉え方や誤訳に翻弄されることなく物事の本質を見抜く力を持ち、「森を見て木を見る習慣」を身につけリスク全体を俯瞰できる感性力を高め急激な環境変化を的確に捉えられるようにし、さらに、それらを組織内外に伝達していくスキルをもつことだ。瑣末な専門家とならぬよう、常に目的意識を持ち、重要性の的確な判断ができ、コミュニケーションを推し進められるようにする。

その前提として経営者自身の意識改革も不可欠だ。過去のしがらみにこだわり、レガシーの重圧に苛まされ、経営者間の疎通が悪く意思決定にブレが生じたり、忙しさを理由に十分な勉強もせず形式面ばかり捉え、本質を理解できないため部下の進言に適切な対応ができず、また面倒を嫌い、保身を考えることで短期的な視野に陥り、経営者の頑な思い込みが現場のセンシティビティーを欠如させ環境変化への適応を阻害することは、組織の存続そのものを危うくする。

経営の本質は環境変化への適応であり、内部統制やリスクマネジメントはそれらの環境変化を経営に取り込んでいく手段に過ぎない。明確な理念を持ち、ぶれのない判断基準を内外に示しながら、劇変する環境に適応することで初めて持続的な成長が実現する。経営理念や行動規範など、経営の原点に立ち戻り信念を確固たるものとした上で、企業を中心に社会を見る態度から社会を原点に企業のあり方を考える発想へ転換することで急激な環境変化を捉え、的確に適応していく理念経営の実践こそが、真の「企業の社会的責任」の遂行にほかならない。


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