日本企業とCSR経営のゆくえ


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CSRが浸透してきた。各企業とも、想定するステークホルダーを対象に、ユニークな『CSR報告書』を発信し始めている。
アピール下手といわれてきた日本企業だがCSRという新しい自己表現の舞台を得て、大きく羽ばたくかに見える。
CSRの広がりは、新たな課題の掘り起こしの場でもある。
これからのCSRと『CSR報告書』のあり方について、二人の識者に語っていただいた。


岸本氏 大久保氏
  • プロフィール

    特定非営利活動法人 パブリックリソースセンター 事務局長
    岸本 幸子 氏(写真上)

    新日本インテグリティアシュアランス(株) 常務取締役
    大久保 和孝(写真下)



日本企業はCSRをどこまで正しくとらえているか

社会の変化に応える

岸 本
岸本氏いま、CSRはかつてのCI(コーポレートアイデンティティー:企業の個性を明確にして企業イメージの統一を図り、社の内外に認識させること)のように新しいマネジメントスタイルとして企業経営の中に取り入れられつつあります。それは企業が生き残るために必要なだけでなく、社会の持続可能性に欠かせぬ課題とされています。大久保さんはたくさんの企業のCSRの取り組みをご覧になっているわけですが、企業の理解度をどのように見ていますか。
大久保
CSRは「企業の社会的責任」と訳されていますが、この訳がCSRに対する理解をゆがめているのではないかと考えています。CSRは、欧米で1980年代に始まった行政改革や規制緩和の流れの中で政府セクターが縮小し、社会的な課題が山積していく現実に対して、市民が企業に社会的課題への対応を求めるところから始まりました。そこには社会的な課題に対して企業がどこまで対応してくれるのかという社会からの期待が背景にありました。企業が良いと思ったことを一方的に行うのではなく、社会が求めているものに率先して対応していくことが基本でなければなりません。
岸 本
CSRの本来の役割から見れば、主体は企業ではなく、あくまでも社会でなければならないというわけですね。
大久保
わが国では「社会」の捉え方そのものが、歴史的また社会風土の違いから欧米諸国と異なっています。社会セクターの捉え方が大きく異なっていることに加え、企業と社会の関係も、これまでは企業が良かれと思っていることを率先して取り組むことをよしとしてきたのです。それは社会が解決してほしいと考えるものと必ずしも一致しませんでした。企業と社会の関係も、対等とはいえない側面もありました。
岸 本
大久保さんのお話でダイヤモンドとバラの花のたとえがありますね。
大久保
これは男女間を例に、わかりやすく単純化したものですが、高価なダイヤモンドさえ贈れば相手は喜ぶと思う考え方と、タイミングとニーズ次第では1,000円のバラでも喜んでもらえるという考え方の相違が、日本企業のCSR活動にも現れているのではないでしょうか。たとえば、東南アジアに進出した日本企業が、本社からの指示ということで、熱心に植林活動を行っています。現地の人々に聞くと、植林の本数の問題よりも、植林の仕方を具体的に教えてほしいという指摘があります。タイ国では、植林活動よりも、エイズ、貧困、労働問題の解決が深刻で切実とされていますが、日本企業におけるこれらの取り組みが見えてきません。
岸 本
社会が企業に求めるものは、時代や地域により変化します。従って、企業がCSRとは何かを知るには、外部とのコミュニケーション以外に方法はありません。その意味で、CSRの本質は、ステークホルダーとの対話にあるといえるでしょう。
大久保
欧州では率先してNGOとのコラボレーションをはかり、積極的な社会的課題への取り組みを行っている企業が、結果として企業競争力を高めています。社会を主体として捉え、自社の活動領域における社会的課題を列挙してみることから始めるべきではないでしょうか。それらを定量評価し、社会から見て、取り組んでほしいとされる優先順位の高い課題から、自社が取り組めるものを抽出することが必要です。社会的課題を実践するためには、実効性が高く、グローバルで渡り合えるNGO/NPOとのコラボレーションが一層必要となるでしょう。
岸 本
社会が100個の課題を求めているとしたら、100個すべてを1企業が背負うわけではないですよね。その企業の強みや事業領域、伝統や文化といったものにもとづき、それぞれの企業が自社のCSR展開における課題に重要度の順位をつけて取り組むことが重要です。つまり、CSRに満遍なく取り組むのではなく、外部との対話から浮かびあがる社会の要請と、企業内部から抽出される事業の社会性リスクを刷り合わせ、CSRの重点課題を戦略的に設定することです。そのことがCSRに関する取り組み自体の持続可能性を高め、株主に対する説明責任を果たすことになると思います。

担当者レベルから役員へ、そして全社へ

岸 本
私どもが上場企業に対して行うSRI(社会的責任投資)の調査結果だけを見ると、この数年でCSRに取り組む企業数は大きく増えています。企業から寄せられる調査の回答を見る限り、日本企業の取り組みもかなりの水準に達してきたという印象があります。
大久保
調査票はどれぐらい戻ってきますか。
岸 本
回答数そのものは送付企業数の1割強に過ぎません。ただ、それらの企業を見ると、CSRの専門部署を設けている企業が4割、統括役員を設けている企業が6割にものぼっています。最近では、SRIの調査に対する模範回答例のアドバイスを行うサービスもあるやに聞いています(笑)。楽観はできないでしょうが、少なくとも教科書的なCSRの理解は進んでいるといえるでしょう。
大久保
大久保氏CSR専門部署の担当役員・担当者には、CSRの概念がかなり浸透してきました。ただ、CSR活動を本業とからめた経営戦略として取り組んでいる企業は、まだ僅かです。各企業の取締役会などでCSRについて議論をしますと、CSRを統括する担当役員はともかく、担当外の役員クラスの方々は、自らのこととしてほとんど捉えていません。その象徴的な例として、各役員間のCSRの捉え方がばらばらで、社内の共通言語になっていないという課題があげられます。そのため、本質をついた議論をすると、それは「○△○の担当だ」「○□○がやるべきことだ」というような議論に陥りがちです。
岸 本
CSRの重要課題の1つに、サプライチェーンマネジメントの問題と並んで、人種、性別、年齢、身体障害の有無などによって差別してはいけないというダイバーシティがあります。わが国では女性というだけで差別されるなど、女性の管理職の登用が進んでいません。大久保さんの目で見て、役員クラスの理解はいかがですか。
大久保
この問題は、CSRが経営戦略として捉えられておらず、個別課題に終始している典型例です。女性の管理職登用は大切だと認識しつつも、すぐに「女性の管理職登用率」という個別課題で対応しようとします。本質はそんなところにあるのではなく、社会構造の大きな変化、特に少子高齢化社会の中で、いかに優秀な人材を確保すべきか、という人事戦略から考えるべきです。
岸 本
こうした問題に目が向かないということは、企業におけるマネジメントの決断のあり方そのものにも問題がありそうですね。
大久保
日本企業における意思決定のメカニズムに、いまだに伝統的な「村」社会的な文化が残っているきらいがあります。そこでは、“水戸黄門”に代表されるように、「長老(上司)」が、現場の意見をしっかりと聞き入れ、「経験」に基づき、明確な形で行うのです。すなわち、CSR活動の遂行にあたっても現場が主導し、トップは現場の意見を真摯に聞き入れ、それらを踏まえた明確な意思決定を行うことが求められます。CSR活動は、ボトムアップとトップダウンの組み合わせによって成り立ち、従業員の理解なく推進されることはないと思います。
岸 本
知り合いのCSR担当者に聞きますと、最近はCSR疲れに陥っていると語ってくれました。
大久保
恐らくトップの意思決定が明確ではないことが、そのような状況に導くのではないでしょうか。全取締役間において、自社のCSRの定義を共通言語とし、それに応じた役割分担がトップから明確に示されることが必要です。これまでのように環境・社会貢献の専門部署が取り扱ってきた流れの延長で、権限と業務範囲が曖昧なままCSRの担当部署を設けても、経営企画部のような部署が進める経営戦略や内部統制整備との関係も不明瞭となり、現場では社内の調整などに膨大なエネルギーを使わざるを得ないと思います。


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コンプライアンス, CSR, 環境の新日本サステナビリティ研究所

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