ストップ温暖化!!いまこそ「環境革命だ」だ。
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東京大学生産技術研究所 教授 山本 良一 氏(写真上)
新日本有限責任監査法人 CSR推進部長 大久保 和孝(写真下)
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「人類は時限爆弾の上におり もし全世界の科学者のいうことが正しければ、主要なカタストロフィを避けるための時間はもう10年しかない」
元米国副大統領アル・ゴアの『不都合な真実』より
大久保
昨年8月の洞爺湖サミットを経て、改めて環境問題への関心が高まっています。山本先生はわが国の環境問題の第一人者としてご活躍されていらっしゃいますが、最近の動きをどのように捉えていますか。
山 本
2008年という年は、歴史に残る年だったと思います。洞爺湖サミットで「2050年までに温室効果ガスを半減する」とG8の首脳が実質的に合意をし、世界に公約しました。それに先立つ6月には日本の全政党が2050年までに現状比6~8割の温室効果ガス削減を表明しました。
大久保
温暖化対策が新たな段階に入ったということですね。
山 本

1992年の気候変動枠組み条約、1994年マネジメントシステムISO14001の標準化、1997年の京都議定書そしてアル・ゴアの『不都合な真実』という本の中で「人類は時限爆弾の上におり、もし全世界の科学者のいうことが正しければ、主要なカタストロフィを避けるための時間はもう10年しかない」と述べられています。そして、世界では、「climate change war」という本が脚光を浴び始めているように、水資源をめぐる戦争が起きるのではないかとの懸念すら出てきています。
大久保
もはや、環境問題は地球規模において危機的な状況に陥りはじめているとのことですが、われわれの多くは、まだこの危機を自分のこととして必ずしも実感していないのではないでしょうか。経営に直面するリスク要因として、喫急の課題として対応しようとしている企業が少ないように感じます。
山 本
確かに、水不足など現時点では実感が湧かないかもしれませんので、1つの証拠を挙げましょう。この数年で、北極海氷が急激に減少したことが明らかになりました。IPCCの当初の予測よりも30~40年前倒しでそれが起こったわけです。北極海氷は太陽光線を反射するため、地球気候システムの“冷却板”の役割を果たしています。これが消失することは温暖化をさらに進行させ、グリーンランド氷床やシベリアのツンドラの溶融を加速することになります。
山 本
地球システムには脆弱なところがたくさんあります。たとえばアマゾンの熱帯雨林、インド洋のモンスーン、北大西洋海流、グリーンランド氷床、西南極大陸の氷床など……温暖化で最初に崩壊を始めるのはどこかで科学者は注目をしてきましたが、これまで結論が出ていなかったのです。ところが2007年9月16日に北極海氷がいちばん危ないということが分かりました。実は、9月の北極海氷は30年前には750万平方キロメートルありました。それが去年の9月16日には413万平方キロメートルに減少していました。約45%の減少です。
北極海氷の面積
大久保
北極海氷を守ることができないと地球はどうなりますか。
山 本
ドミノ現象が起きる可能性があります。グリーンランドの氷床の全面的融解が始まるということです。
大久保
オバマ氏が米国の大統領に決まりました。97年の京都議定書から離脱していた米国も対応が変わり始めています。
山 本
実はオバマ氏もマケイン氏も、97年の京都議定書が掲げた小規模目標では環境の危機は解決できないと認めていました。これまでの対策では都市のヒートアイランド化現象や水不足、洪水などの対策になっても根本解決にはならないというのが共通認識です。その意味でも2008年は、「環境革命」という新たな段階に入ったといえるでしょう。
大久保
2007年にはIPCC(気候変動に関する政府間パネル)と元米国副大統領であったアル・ゴア氏がノーベル平和賞を共同受賞しました。
山 本
IPCCは世界の科学者と連携し、地球温暖化のメカニズムを解明してきました。アル・ゴア氏は、『不都合な真実』を出版し、ドキュメンタリー映画も評判になりました。地球の表面温度が上昇していくと、グリーンランド氷床の溶解が起き、北方の森林が枯れる、その次は南極大陸の西部氷床が大崩壊を始める、アマゾンの熱帯雨林が枯れる、といった具合に……、地球の乾燥化、砂漠化が一気に加速します。温暖化問題を研究しているカリフォルニア大学サンタバーバラ校のフェーガル名誉教授は、1,000年前の地球の温暖化のときには欧州で中世ルネッサンスが発達する一方、他の地域では大干ばつでいくつかの文明が崩壊したと語っています。
「科学者は社会的に重大な結果を招く問題については控えめさをかなぐり捨てて、社会に警告を発する責任がある」
NASA宇宙科学研究所所長ジェームズ・ハンセン博士の言葉より
大久保
CO2を削減しないといけませんね。どれくらいまで削減したらよいのでしょうか。
山 本
北極海氷を守るにはCO2の濃度を350ppmまで戻さないといけないといわれています。ところがすでに385ppmになっています。100%の削減でもすまないわけです。地球上のCO2濃度は、18世紀後半の産業革命以前は280ppmでした。その倍の550ppmになると地球の表面温度は3度上昇すると考えられています。
CO2の濃度の推移
大久保
地球の表面温度が2度や3度上昇することに対する危機感を持っていない人も少なくないと思います。どこまで深刻に受け止めたらよいのでしょうか。
山 本
産業革命前と比べて地球の表面温度は2005年時点で0.74度上昇しています。それなのにこの変化です。実は、「気温上昇と環境影響予測」という資料があります。1度上昇すると、北極海氷のようなグローバル・エコシステムの2~47%を失うとされています。ペルーでは氷河が融け、飲料水や農業に問題が発生し、アフリカでは作物の収穫量が減少し、豪州クイーンズランドの熱帯雨林は50%減少するというのです。さらに2度まで上昇すると、海面上昇とサイクロンの影響で1,200~2,600万人が移動を余儀なくされ、グローバルな穀物生産が低下し、食糧価格の高騰で1,200万人から2億人が飢餓リスクにさらされます。
山 本
現実には気温上昇1.5度で地球上の100万種の生物種が絶滅するという予測さえあります。3度も上がると世界の人口の50~60%がデング熱(現在30%)の危険にさらされるといわれています。
大久保
地球の表面温度は、10年で0.2度の上昇で進んでいると聞いたことがあります。
山 本
自然変動の寄与もありますので、一本調子に上昇することはありませんが、中長期的には必ず上昇していくと考えられています。当面はなんとしても2度突破を阻止しないといけません。地球のメカニズムとして、CO2の排出をストップしても、すぐに気温が下がるわけではなく、緩やかな上昇を続けます。NASA(米航空宇宙局)宇宙科学研究所所長のジェームズ・ハンセン博士は、2006年9月に過去30年間に地球表面が何度上がったかという調査結果を発表しています。それによると全世界で0.54度上がったというのです。1900年から2000年までの100年間で0.6度の上昇ですから、この30年間で地球の温暖化は3倍に加速しているわけです。手をこまねいていると2016年には2度突破の確立が50%を超えるとの予測もあります。われわれは2度突破の直前にまで足を踏み入れており、残された時間は10年間程度しかないのです。
大久保
環境に対する意識を根本的に変えなければなりませんね。環境に配慮するという段階から、義務を課してでも取り組まなければならない状況まで来ているのではないでしょうか。
山 本
気候変動を数度以内に抑制するには、CO2の濃度を少なくとも450~550ppmで安定化させねばなりません。2050年までに世界のCO2排出量を半減させるには、日本のような先進国が率先して60~80%の削減に踏み込まなければ達成は不可能だということがお分かりでしょう。この地球的な危機に無策を決めれば、水や食糧確保をめぐって大量の環境難民が発生し、さらに難民の受け入れや食糧の確保をめぐって“気候戦争”がぼっ発しないとも限りません。この段階まで行くと環境問題ではなく、「環境安全保障」の問題に行き着くのです。
地球温暖化対策の3つの段階
「地球は、地球温暖化の引き返すことのできない時点を通りすぎてしまった」
ガイアの仮説を提唱したジェームズ・ラブロックの言葉より
大久保
もはや一刻の猶予もないですね。日本は京都議定書などで世界をリードしてきた環境先進国というイメージがありましたが、お話を伺うにつれ問題の捉え方の甘さを実感してきました。
山 本

環境先進国というイメージは、政府や財界だけでなく、国民も思っているでしょう。実態との間にどうして大きな齟齬が生まれたのか、それには理由があります。2回のオイルショックを経て、日本は省エネ先進国となり、優れた環境技術を備えてきたことは事実です。ところがバブルがはじけて10年を失ったわけです。バブルの崩壊と1992年のリオの地球環境サミットの時期が重なります。欧米諸国の多くは、そのときに猛反省して、持続可能な社会を目指さなければならないと考えました。リオ宣言を実行する行動綱領としてアジェンダ21をつくって、実行に取り掛かったのです。ところが日本はサミットをうわべだけのものとして受け入れました。
大久保
経済の建て直しで、政府にも企業にも余裕がなかったともいえますね。
山 本
そうです。日本は経済の建て直しを最優先しました。社会も国民の意識も環境問題での意識転換からほど遠かったわけです。日本はいまも90年代の初期的削減の段階に留まっています。現実には京都議定書が日本に示した削減目標であるマイナス6%どころか、07年度時点で逆に8.7%も上回る状況です。
大久保
欧米などと比較するとどこが違うのでしょうか。
山 本
E U では、2020年までに温室効果ガスを20%削減することで合意をしています。また、英国では、2050年までにCO2を1990年比で80%削減することを義務づけた気候変動法案を政府が発表しています。国が削減量を法制化するのは世界で初めてですが、この法案では、独立機関である気候変動委員会が政府に助言し、2020年までに26~32%削減し、5年ごとに達成度を評価するとしています。
一方、2001年に京都議定書から離脱した米国は、この数年、ハリケーンや竜巻、干ばつ、洪水、熱波、寒波など自然災害に見舞われ、世界の科学者たちから環境政策の転換を強く迫られ、大統領もようやく重い腰を上げ、2007年からの10年間で石油消費量を20%削減し、地球温暖化対策に役立てると表明しています。すでに一部の、州政府ではかなり思い切った動きも始まっています。
山 本
「キャップ&トレード方式」による排出量取引が始まっています。これは米国の西部6州とカナダ2州の間でスタートしたほか、オーストラリアの州政府でも始まっています。キャップ&トレード方式とは、温室効果ガスの総排出量を設定した上で、国・業界・企業などの排出主体ごとに排出枠を割り当て(キャップ)、排出枠の一部を売買(トレード)するというものです。
山 本
EUでもキャップ&トレード方式によるEU-ETS(エミッション・トレーディング・スキーム:欧州排出量取引制度)が2005年から動いています。英国は国内の排出量取引制度を2002年からスタートさせています。
大久保
日本は2008年10月からキャップなきトレードというのをスタートさせましたが、どのように評価されますか。
山 本
排出量取引制度というのは一定期限までに確実に温室効果ガスを削減するということでキャップを被せて取引をするものです。キャップなきトレードでは信用できません。
大久保
遅れていると思っていた海外の方が進んでいるという状況ですか。
山 本
日本企業は経営上の三重苦に苦しんでいるのが実態です。第1は、省エネ先進国に法的規制はなじまないと自主行動になっていること。第2は、自主行動といいながら擬似的なキャップになっていること。第3は、その上にキャップなきトレードをやれといわれていること。三重手間なわけです。
大久保
CO2排出量削減は待ったなしですが、多くの企業にとっては不可避的にかかるコストという認識が薄く、十分な対応ができていないように感じます。ところで、EUでは環境税の導入も進んでいますね。
山 本

最も効果があるのは環境税でしょうね。環境負荷をもたらす行為に対して、応分の社会的費用を負担していただくという考えは極めて合理的です。企業などはより温室効果ガス排出量の少ない設備や機器などへの代替を進めざるをえないほか、化石燃料等の削減、省エネ技術の研究開発等を促す価格インセンティブなどがあります。また、一人ひとりの国民には税の負担を感じることで、温暖化対策の必要性を感じてもらうアナウンスメント効果も期待できます。
大久保
日本では環境税どころか、景気対策ということで定額減税が話題にのぼっています。
山 本
2008年9月に起きた金融崩壊はたしかに大きな問題です。しかし、私にいわせれば金融の崩壊はいつか建て直しができる問題です。環境が崩壊したら取り返しがつかないわけです。この1~2カ月、金融崩壊から世界を立て直すには、「グリーン・ニューディール」と呼ばれる環境エネルギー革命をやって、新たな産業をつくりだし、雇用をつくりだす以外にない……という声が広がりつつあります。
大久保
経済の新しい成長エンジンを環境対策でつくりだすという考え方です。
山 本
グリーン・ニューディールをいっているのは国連事務総長のパン・ギムン氏、フランスのサルコジ大統領、英国のブラウン首相、米国のオバマ次期大統領です。韓国大統領のイ・ミョンバク氏は8月にグリーン・グロース(緑の成長)を唱えています。2020年までに韓国は3兆ドル、日本円にすると300兆円のエコビジネスのマーケットをつくりだすといっています。
大久保

環境問題の難しさは、政府がやるべきことと、企業がやるべきことなどいくつかの話が混在していることです。社会のそれぞれの役割分担に応じた対応ができていません。最終的には国民一人ひとりがどのように対応すべきかが問題です。
山 本
政治、行政がもっとも責任が重いのです。昨年の10月22・23・24日に東京都でC-40という国際会議があって、世界の主要都市40が地球の温暖化で先進的な共同行動をとるということでした。
IPCCの適応策作業部会長でロンドン大学のマーチン・パリー教授が講演をしたのですが、そのとき会場から「一体、われわれ市民は何をしたらよいのでしょう」という質問がありました。先生の答えは、「まともな政治家に1票を入れろ」という回答でした。
大久保
この冊子は企業のCSR・環境の担当者の方が多く読まれていますが、企業自身がいますぐにでも対応できることでアドバイスがありませんか。
山 本
ルールというか土俵をきっちりつくらないといけません。自主的行動、自主的環境経営では限界があります。経済の仕組みを変えないといけないわけですから……。私は環境税の導入がいちばん効果があると思っています。欧州ではエコロジカル近代化という言葉があって、環境税をかける一方で所得税や法人税は軽減する方向です。福祉関係の企業の負担も軽くしています。それで税収中立を守っているわけです。
大久保
オバマ氏で米国が動き始めると、世界中で瞬く間に取り組みが進むのではないかとの期待があります。しかし、その一方で日本の取り組みが一足遅れているのが気になります。
山 本
社会は一気に動かないと動けないものです。いまのキーワードは、グリーン・ニューディール、グリーン・グロースですが、もう1つ「グリーン・ラッシュを動かせ」という言葉もあります。かつてのゴールド・ラッシュのときのように、グリーン・ラッシュで社会を動かそうというのでしょう。ちなみに、『ニューズ・ウィーク 英語版』の2008年10月21日発売号は「ザ・グリーン・レスキュー(緑の救済)」が特集でした。
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