ストップ温暖化!!いまこそ「環境革命だ」だ。
「2050年までに世界全体の排出量の少なくとも50%削減を達成する目標というビジョンを、UNFCCC(国連気候変動枠組条約)の全締約国と共有し、かつ、この目標をUNFCCCの下での交渉において、これら諸国と共に検討し、採択することを求める」
北海道洞爺湖サミットの主要経済国首脳会合の合意より
大久保
環境問題やCSRに熱心な企業に投資を通じて応援するSRI(社会的責任投資)というものがあります。どのようにご覧になっていますか。
山 本
この分野でも日本は立ち遅れていますね。しかも今回の金融崩壊で冷水を浴びせられているでしょう。いま、わが国には40くらいのSRIファンドがありますが、今回の株価下落で各ファンドともひどい目にあっています。SRIの残高は、金融危機の前で日本が7,000億円、欧州が40兆円、米国が220兆円でした。
大久保

これまでの海外のSRI投資を見ていると費用対効果のパフォーマンス重視ということよりも、宗教ファンドなどの価値観に基づく投資が中心でした。そのためわが国では中々根付かなかったことも事実です。それが最近では、年金ファンドなどの機関投資家までもが、SRIへ関心を高めるようになってきました。その背景には、地球温暖化問題など、CSRとして取り組むべき課題が企業経営の中期的な業績に直結するようになってきたことがあると思います。
山 本
日本の課題は投資家層が“投資”と“投機”の区別がついていないことではないでしょうか。投資というのは環境関連の産業を育成することが目的のはずです。利益を求めるのはよいとして、ファンドマネジャーはもっと勉強しないといけませんね。情報の流通がうまく機能していないわけです。兜町に環境経営情報を行き渡らせるようにしないと……。
大久保
企業から環境報告書やCSR報告書が発刊されています。先生はこれらの報告書をどのように改善されるべきとお考えですか。
山 本
いまの環境報告書やサスティナビリティ報告書については私にも責任があります。10年以上、私も環境省の環境コミュニケーション大賞の審査委員長をやってきたからです。環境配慮促進法のときは委員会の座長もやっていました。いま、環境経営学会の会長もやっています。これまでは、情報開示する企業の数を増やすことに重点があったことは事実です。内容的には不十分な点が多々あります。
大久保
現状は、企業を中心としたものの見方が多く、社会を中心にした記述が少なく、各社のPR誌的な側面が否定できません。
山 本
いまの問題点は、“質”をいかに上げるかにあります。信頼性を高めるということですね。財務報告書が粉飾されていたように、環境報告書も粉飾されているとしたら、第三者認証のように品質を確保する制度を確立する必要性があります。また、どういう情報を開示するかという点においても不満足な点があります。環境情報も不十分だが、CSRの情報も偏っている印象があります。つまり出せる情報しか出せないという開示の方法になっているわけです。
大久保
構成や内容についての具体的なご意見はありますでしょうか。
山 本
これらの冊子は、大きく分けて環境的側面と社会的側面からなっています。定量的な評価が年々進みつつあるものの、どちらかといえば環境側面の定量的評価の方が進んでいるように思います。社会科学、人文科学の先生方にももっと奮起していただき、各企業の社会的側面を定量的に評価する方法を確立してほしいと思っています。それが進むと、もっと客観的な報告書が登場すると思います。
大久保

いままでの環境報告書やCSR報告書は企業を中心に、企業が取り組んできたこと、取り組みたいことをレポートとして作成してきました。これからは社会からの期待や要請を中心にステークホルダーの視点をもっと入れていく必要があると考えています。最近では、一部の企業で、これまでのように企業の基本姿勢が真っ先にくるようにレポートの書き方も少しずつではありますが変わってきたように感じます……。
山 本
構成はずいぶん変遷がありました。トップが署名して理念を前面に押し出すという流れにはなってきましたね。ただ、定量的な目標を掲げ、その目標に対してどこまで取り組みが進んできたかという定量的な報告書はまだまだ少数のようです。
大久保
だんだんと、定量的な情報を取り入れる企業も徐々に増えています。
山 本
そうですか。でも一刻も早くチームマイナス6%の初期的削減の段階から飛び出し、各企業もそれを上回る野心的な目標を掲げないと、他社との競合で勝てないのではないでしょうか。これはもう担当者のレベルではなくリーダーの資質が問われる問題だと思います。
大久保
報告書のあり方にも問題はありますが、そもそも経営者のCSRへの取り組みに対するマネジメント上の位置づけ、人材配置、予算措置などにも課題があるように感じます。
山 本
おっしゃるとおりです。10年位前からいっていることですが、その企業のエース級を環境やCSR関係部門の責任者としなければなりません。現実は、環境やCSR関係部署は、せいぜい数人でその多くが他の部署と兼務であるというのが実態でしょう。決して予算も潤沢とはいえません。
大久保
経営企画戦略と環境やCSRへの取り組みは別物という捉え方が根強いように感じます。従来からの経営企画の延長線上に中期的なリスクへの対応として、CSRと環境を取り込んでいくというような動きがあってもよいのではないでしょうか。とくに、タイムスパンが短くなる中で、中期的なリスク要因も瞬く間に短期的なリスク要因となります。また、CSRへ取り組むことは無形財産としての未来への事業投資なのです。
山 本

そのとおりです。企業の経営にはまだまだダブルスタンダードが幅を利かせています。私個人の経験ですが、昨年、グリーン購入法で環境偽装の不祥事に遭遇しました。実はグリーン購入法には罰則規定がないのです。日本の文化の特性なのでしょうが、善意の前提の上に組まれているわけです。よもや業界をあげて環境偽装をやるとはだれも考えてもいなかったわけです。1社や2社が環境偽装をやると、それは大きなリスクになります。それが露見すればその企業は名誉を失い、ブランドに傷が付き、売上が減るだろうと予測できるからです。ところが業界ぐるみで環境偽装をやった場合は、抑止効果が働かないわけです。抜き打ち査察のような制度も全くなかったわけです。これは完全な盲点でした。
大久保
一部の企業で、安易な気持ちから環境データを改ざんした事件がありました。確かに、いずれの事件も環境に及ぼす影響そのものは大したものではありませんが、本音のところで各企業の環境問題に対する意識の希薄化が見え隠れしています。
山 本
環境データの改ざんがどのくらい倫理的な問題なのか、その企業はどれほど苦痛を感じているのか、曖昧なままです。私は工学部出身ですが、この10年ほどで日本のモノづくりの現場が大きく劣化を始めているのではないかという懸念を強く持っています。環境偽装だけでなく、耐震偽装、耐火物偽装などあらゆる偽装がはびこっています。
大久保
過去の経緯をみると、わが国では1950年代に公害問題が明らかになったことをきっかけに、各企業も環境問題に対して相当な取り組みをしてきました。その意味では、環境問題へ取り組むことは当たり前のこととして認識され、改めて付加的にコストをかけることではないとされています。環境問題への対応をさらに取り組むことに対して、社内での十分な理解が得られにくいことも事実です。
山 本
私の見るところでは社会的な制裁が弱くなったことに原因があるのではと思っています。
山 本
環境だけではないですね。耐震偽装などというのはひどい話です。たとえば、グリーン製品を販売したり、購入するブランド効果の方だけに目がいって、問題を起こした場合に罰するという社会的な正義というか、制裁が非常に弱くなっています。
大久保
これまでは、報告書を中心にプラスの側面ばかりが強調されているわけですね。企業はもう少しマイナス的な側面にもきちんと向き合っていかないといけませんね。
山 本
マイナス的な側面を抑止している企業をもっと褒めないといけないわけです。先ほど環境偽装の話のなかで業界をあげてということを申しましたが、各社ともISO14001の認証をしっかり取得しているわけです。環境経営をやっているにも関わらず、環境偽装が行われたり、排水の垂れ流しが行われていたとしたら、それは由々しき問題です。
大久保
ISO14001のように形式的な用件を整えることばかりをしてきて、経営が本来目指すべき本質を見失っていたということですね。
山 本
形式主義に流れてしまっていたわけです。現実にはコスト削減が最優先だったわけでしょうね。実際の企業経営で、コストや品質をどのように見るか。もう1つは、CSR的品質というのもありますね。それらのどれを優先するのかという問題でもあります。
大久保
エコに取り組むにあたって、日本の技術にも世界をリードできるものが数多くあると思います。日本が環境分野で世界のリーダーシップを発揮するには、どのようなことに取り組んでいくべきとお考えですか。
山 本
いろいろな矛盾はあるのですが、科学的には“変局点”という言葉があります。あるポイントを超えれば一気に変わるという臨界点のようなものを指します。いま日本の社会は臨界点の直前まで来ていると思います。このポイントを超えれば、日本国内でもグリーン・ラッシュというか、環境革命に移れると思います。大事なことはトップリーダーの資質でしょうね。トップリーダーがどのように判断し、行動するかだと思います。米国のオバマ氏の演説は心に突き刺さるといわれていますが、わが国のトップリーダーたる皆さんにも言葉で語り続けてほしいと思います。まず、言葉によって人々の意識を転換しないといけません。
大久保
企業の担当者の皆さんだけでなく、社長や部長などリーダーたちの意識改革も期待したいですね。本日は誠にありがとうございました。
*本対談は2008年11月13日に行われたものをベースに構成しています。
プロフィール
山本 良一 (やまもと りょういち)氏(写真左)
東京大学生産技術研究所教授。東京大学工学部冶金学科卒業。工学博士。専門は材料科学、持続可能製品開発論、エコデザイン。文部科学省科学官、エコマテリアル研究会名誉会長、日本LCA(ライフサイクルアセスメント)学会会長、環境経営学会会長、国際グリーン購入ネットワーク会長、環境効率フォーラム会長、「エコプロダクツ」展示会実行委員長など多くの要職を兼務。
著書に『戦略環境経営エコデザイン』『サスティナブル・カンパニー』などのほか、『1秒の世界』『世界を変えるお金の使い方』『気候変動+2%』『温暖化地獄』など多数。
大久保 和孝(おおくぼ かずたか)(写真右)
新日本有限責任監査法人 CSR推進部長(パートナー 公認会計士)
株式会社新日本サステナビリティ研究所 常務取締役
慶応義塾大学法学部法律学科卒業。ECS2000規格の作成委員、第一回CSR WG(経済産業省)、国内排出量取引制度検討会委員、社会的責任研究委員会(環境省)、京都クレジット等取引所研究会会員(東京証券取引所)、研究費不正対策検討委員会(文部科学省)、横浜市コンプライアンス委員会第三者委員、CSR研究会委員(企業活力研究所)、情報セキュリティガバナンスWG(経済産業省)、不二家信頼回復会議対策委員会、沖縄大学院大学調達問題検討委員会委員、早稲田大学ほか非常勤講師、消費者支援基金評議委員、PTB監視委員会委員、政策分析ネットワーク監事等に就任。