大八木氏 大久保氏
  • 帝人株式会社 代表取締役社長(CEO)
    大八木 成男 氏(写真左)
    • 【帝人グループと事業概要】
      1918(大正7)年にわが国初のレーヨン(人絹)メーカーとしてスタート。その後、ポリエステルなどの繊維で培った技術力を土台に、「合成繊維」「化成品」「医薬医療」「流通・リテイル」「IT」などの多彩な分野に進出。日本をはじめアジア、欧米にも数多くの拠点をもち、グループの社員数約2万人のうち、9,000人近くが海外で働いている。
  • 新日本有限責任監査法人 CSR推進部長
    大久保 和孝(写真右)

企業理念は ”道しるべ”

大久保
大八木社長は、2008年から帝人株式会社の代表取締役社長兼CEOとして、帝人グループをけん引してきました。本日は、経営者の視点から、「経営とCSR」について、お話をお伺いしたいと思います。まずは、CSRを論ずる前提として、経営理念との関係が大切になります。経営理念をどのように位置づけていますか。
大八木
企業はいま大変な状況です。サスティナブルを追求する前に、いかに自分たち自身がサバイバルすべきかが問われています。しかし、状況が厳しければ厳しいほど、企業理念を見失ってはいけません。企業理念というのは、企業活動の“道しるべ”であり、大変な時代こそ、企業理念に立ち戻らなければなりません。帝人グループが、社会になくてはならない存在として人々に認識されるための“道しるべ”なのです。
大久保
企業理念は、どのように制定され、どのように活用されているのでしょうか。
大八木
もともと帝人は、絹のような繊維を化学の力を借りて実現しようというベンチャー精神がベースにあって生まれた企業です。その意味では、創業以来、「ベンチャー魂をもって社会に貢献しよう」という心意気を持ち続けて事業を展開してきました。そして、1993年の創立75周年のときに、それを具体的に明示するために、「Quality of Life」を宣言し、「人間への深い理解と豊かな創造力でクオリティ・オブ・ライフの向上に努めます」を企業理念として制定しました。その基本的な考え方にあるのは、1)顧客を向く、2)社会を向く、3)そこに価値を生み出し、創造していくことです。事業を多角化・グローバル化していく中で、あるいは、激変する経済環境下においては、常に「企業理念に戻る」ことで、経営の“道しるべ”としながら、事業目標が企業理念と食い違うことなく、持続的成長を実現させたいと思っています。企業理念は、どういう国や文化であっても全世界で統一した価値として浸透させる一方、その下にある企業行動規範や行動指針などは時代に合わせて調整・追加していくべきだと考えています。
帝人グループ 企業理念

グローバル展開で変わるCSRの位置づけ

大久保
企業活動がグローバル化するなかで、多様な文化に触れることが増え、不偏性を持つことが難しくなっていないのでしょうか。
大八木
私どもは、一貫して企業品質、製品の品質、サービスの品質を大切にしてきました。それらをきちんとマネジメントすることで、新たな企業価値につながると考えています。東西冷戦の終結後、グローバル化が一気に進みました。私どもも民族、文化、宗教の異なる地域で事業活動を進めるようになりました。当然、社会貢献ひとつとっても、それぞれの場所で意味が変わってきます。
大久保
グローバル展開によって企業を取り巻く環境だけでなく、リスクの質も大きく変化していると思います。また、地域によってCSRのとらえ方もずいぶん変わってきたのではありませんか。
大八木
帝人は2000年頃からグローバルなM&Aを進めました。フィルム事業においてはアメリカのデュポン社と50対50の合弁会社をつくり、欧州、米国、アジア、日本の各エリアで合弁会社を立ち上げました。さらに、欧州でアラミド繊維の事業買収などを行い、その中で、欧米流の経営理念やCSRのあり方を学び、取り入れてきました。「Quality of Life」というコンセプト自体は変わりませんが、CSRとして何をすべきなのかについては、地域によってかなりの違いがあると思っています。
大久保
日本を中心として捉えてきたCSRの考え方からグローバルのCSRに舵を切ったというわけですね。
大八木
2003年から2005年にかけて、欧米の考え方を参考にしながら、CSRにコンセプチュアルに取り組めるよう、CSR活動の在り方について再整理しました。2年間かけて議論した結果、「帝人グループにおけるCSRピラミッド」として整理することができたのです。社会に身をおく以上、 CSRにはどの企業も取り組まないといけません。その当時、わが国を代表する企業のいくつかが企業不祥事によって社会から厳しく指弾されるという事件がありました。私どものCSR推進の考え方を示したCSRピラミッドでも、コンプライアンス・リスクマネジメント・ESH(環境保全、安全・防災、健康)・製造責任・品質保証を、世界共通の「基本的CSR」と位置づけています。
帝人グループにおけるCSRピラミッド
大久保
次が「拡張的CSR」ですね。
大八木
ええ、人財・労働・購買・調達に関わる部分です。たとえば人財では、ダイバーシティの取り組みとして、女性社員の活躍推進のほか、障がい者の雇用推進、海外ローカル社員の登用などを掲げました。女性社員の割合は3割に高めて管理職への道筋を付けようとしています。労働環 境では、フレックスタイムの導入や高齢社員の活用はもちろんのこと、ワークライフバランスの推進にも取り組んでいます。また、購買や調達では、私どもへのサプライヤーに対して、帝人の基本的な考え方や理念を提示し選択の基準をオープンにしました。「拡張的CSR」は帝人が生きていくために必要な取り組みです。
大久保
ピラミッドの先端部が「選択的CSR」です。これについては基準がありますか。
大八木
現状は経団連の1%クラブのような発想です。オランダの美術館建設や交響楽団に資金援助をし、日本公演へのサポートも行っています。また、小学生やシニアのテニス大会やテニススクール、全国高校サッカー選手権大会の協賛を行っています。また、中国などでの植林にも協力しています。将来はこのオプション群のところは支援・義援というレベルから、ビジネスの場、企業価値創造の場につなげていきたいと考えています。そして、ゆくゆくは事業そのものを社会貢献のレベルに結び付けていきます。